ゆとりですがなにか

ドラマとは関係ないです。戦/兵器/アフリカ/新興国/ITベンチャー/医療/介護/IoTとか

英国発の技術系ベンチャーHealxの事業が意義深い。

最近知った、Healxという英国ケンブリッジ発の技術系ベンチャーが行っているヘルスケア領域の事業に感銘を受けたので、調べてみました。

1. Healxとは

Healxは、薬のリパーパシング(既に臨床で使われている薬から別の疾患に有効な薬効を見つけ出し再開発すること/ドラッグ・リポジショニング)によって難病患者の治療が可能になることから、治療薬・治験データと個人のゲノムデータを結びつけ、治療薬と患者のマッチングをしている英国の企業です。

Our mission is to transform the lives of rare disease patients by intelligently matching drug treatments.
※Healx websiteより

2014年に設立され、英国のケンブリッジをベースに事業を行っているようです。

2015年に、Life Science Business of the Yearを受賞、
2016年に、Cambridge Graduate Startup of the Yearを受賞、
2017年には、英国Tällt Ventures主催の世界に大きな影響を与える可能性のある企業DISRUPT100に選出されていました。

disrupt100.com

※ちなみに日本からはfreeeが、ケニアからはSANIVATION(簡易設置型のトイレを提供)、FUZU(人材サービス)が、タンザニアからはJamii(低所得者向けの健康保険)、ウガンダからはMATIBABU(血液採取なくマラリア検査ができるキット開発)、ナイジェリアからはMpedigree(偽薬検査)が選出されていました。100社中17社がヘルスケア領域だそうですが、17社中4社はアフリカの企業です。

資金調達は過去3回行っているようでした。

2015年 4月 £300k($360,000/3900万円程) シード
2016年 3月 調達額不明 
2016年10月 $1.5million(1億5300万円程) シリーズA
※crunchbaseより

直近の調達でのリードインベスターAmadeus Capital Partnersのパートナー兼CFO、Hermann Hauser氏は、"With huge pressure on R&D budgets, drug repositioning will be essential in the fight against rare diseases. With this investment, Healx will take up a leadership position in the drug repurposing sector, expected to be worth over $31 billion by 2020.”と期待を寄せています。

事実、Healxのプロダクトによって薬のリパーパシングの研究は6ヶ月以内に収まり、これは従来の文献ベースで行う研究と比べものにならない早さのようです。

また、治療薬の開発成功率も20%まで上がり、これは通常の新薬開発における成功率0.00003%(3万分の1)とも比にならない高さのようです。
※どの治療薬を開発するかによって成功率は異なるので一概には比較できませんが、既に使用されている薬から開発するので成功確度はゼロベースより高いことは確実かと思われます。

一方、そもそもの疾患対象者が少ないため、再開発された治療薬の治験実施へのハードルの高さは懸念されているようです。

Healxのプロダクトでキーになるのは、難病の疾病情報や治療法、医薬品の有効性を記録した治験DB、薬の有効性や不適合反応に関するデータです。

特に製薬会社から治験データを提供してもらうのには苦労をしたらしいですが(製薬会社は競合他社に治験データが漏れるのではと懸念した)、2014年に英国の国民保険サービス(NHS)が製薬会社に対して、患者に高額治療の効果が認められなかった場合、その費用をNHSに払い戻すよう製薬企業に請求できるようになったことが追い風になったようです。Healxを使えば、製薬会社が治療の失敗(治療薬の無効果)を高い確率で予測でき、年間数百万ポンドの払い戻しによる損失額を減らすことができると認識されました。

2. Healxが提供している価値

世界には正式な患者団体が存在する難病が7000種類(対象患者数3億5000万人)あり、そのうち95%は効果が期待できる治療法がないそうです。
Healxはそのうち1000種類の難病を対象にしています。

ですが、難病は疾患対象者が少ない(=処方数も少ない)ため1治療薬あたりの市場規模も小さく、その価格も研究開発費も膨大になってしまっています。

例:
希少難病CAPS(国内患者数が約50人の難病)の注射薬の価格 130万円/本
http://www.vho-net.org/-CAPS%E6%82%A3%E8%80%85%E3%83%BB%E5%AE%B6%E6%97%8F%E3%81%AE%E4%BC%9A.html
シスプラチン(抗がん剤)の価格 10万円強(ガン治療薬も十分金額が大きく投薬を諦める方もいるそうです。) http://www.ganchiryohi.com/kouganzai/womb.html

そのような難病の治療薬を開発する際に、既に患者数のある疾病で使用されている薬をリパーパシングすることで大幅に研究開発費・期間をショートカットし、今まで投薬できなかった難病に対して治療薬を提供できるようにすることは、大変大きな社会的意義を持つと思います。

また、Healxは、単に臨床で使用されている薬の薬効と難病の疾患データ、治験データを使ってマッチングしているだけではなく、ゲノムデータと合わせることで個別化医療(個人の生命情報とその症状に合った治療薬とマッチングする)をも実現しようとしています。

難病だけでなく、他の疾病でも個々人の遺伝子特性によって有効性が変わるそうです。個々人に対して、その特性から治療薬を選定していくことができるようになれば、1治療薬あたりの有効度合いを最大化できる=治療の効率化ができるようになります。

事実、治療薬が特定の患者にどのくらいの有効性を示すかをも予測できるようになったそうです。有効性が予測できるようになることで、臨床医はどの治療薬を使うべきかについて、経験則だけでなく個々人のデータに基づいて判断することができるようになります。

3. 実際のケーススタディ

CDKL5 syndrome
https://healx.io/case-studies/

Fragile-X
https://www.fraxa.org/university-cambridge-startup-healx-rapidly-identifying-existing-drugs-help-fragile-x-patients/

4. まとめ

■治療薬を得られるか否かで人の命に大きなインパクトをうむ難病というカテゴリに対して価値を提供していること

■今まで偶発的な発見や文献による研究によって活用されてきた薬のリパーパシングをデータによってコスト・期間ともにショートカットできるようにしたこと

■薬効・有効性データ・治験データと個々人のゲノムデータから、その個人に最適な治療薬を提供することで1治療あたりの効果最大化が実現する可能性があること

個人的には上記3点に大変感動して、これは大変意義深い素敵な企業だと沸きました。

難病ってニッチのニッチだよね、ではなく、特に最後の点に関して可能性を感じました。1治療あたりの効果最大化、が医療費削減等言われている日本でも本質的なポイントなのではと思います。